【ひとを<嫌う>ということ】 中島義道(角川文庫)
人を嫌ったり嫌われたりするメカニズムについては、漠然とわかっていたはずなのに、この本を通しで読んだら自分の意識に欠け落ちていた部分がかなりあることに気付かされた。
著者は優れた論考をする人だ。冷徹に己を客観視するし、人間的にも素晴らしいと思う。
なのに家族からはすごく嫌われているそうで、比較的早い段階でその話が出てくる。
その打ち明け話があったからこそ、ずばっと書かれてしまって読み手が落ち込むような論考も、なんとか読みすすめることが出来た。
また同時に、夫婦喧嘩でかっとなった妻がわめいたことも「ふむふむ興味深い」とか言いながら逐一書き留めておきそうないやらしい感じが著者の文には漂っていて、まるで著者の人格そのものが本の伏線のようだった。(多分そういう計算をして打ち明け話等を入れたのだと思う)
しかし「こんな人でも家族からは嫌われるんだね」とたびたび思い返しては自我を守る(私の)憐憫のなんといやらしいことだろうか。愕然とした。
そういった意味で一粒で三粒分の味わいがある本だった。
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